発足の言葉   代表・柴山 哲也(メディア・アナリスト)

動くメディアを専門に研究するシンクタンクを、10人の発起人の方々の協力を得て、2005年に立ち上げました。

昨年の10月末には、発足記念のイベントとして国際シンポジウム「メディアのM&Aとジャーナリズムの公共性」のテーマで、国際シンポジウムを京都の嵐山で開催しました。アメリカ、イギリス、オランダ、アジアの気鋭のジャーナリストと当シンクタンクの発起人が、メディアのM&Aとジャーナリズムの未来について、2日間にわたる侃々諤々の議論をしました。ライブドアや楽天によるテレビ局のM&A問題が世論を騒がせていた時期でした。今年1月5日に亡くなったテレビ朝日のプロデューサー日下雄一氏も、病身を押して特別参加してくださいました。心に深く残る記念すべきシンポジウムでした。この記録は当ホームページに掲載してあります。

メディアの力――それは計り知れないほど巨大です。民主主義がゆきわたった自由な先進国では、人々を動かすのに最も力があるのはメディアです。なぜなら、メディアにはよりよい世論を作って民主主義をより成熟させるという本来の役割があるからです。 2005年9月の劇場型総選挙を演出し、小泉構造改革路線の圧勝という空前の結果をもたらしたのはメディアの力でした。さらには、時代の寵児からあっという間に拘置所の人となった堀江貴文氏を崇拝し、叩きのめしたのもメディアの力でした。その後に続いた永田メール事件は、“情報の真偽の見分け方”という、ジャーナリズムの原初的な課題へと、時代を逆戻りさせています。

メディアはその社会的役割を忘却して、自己利益や既得権益の維持に邁進している、と国民の目には見えています。『国家の品格』という本がベストセラーになっていますが、品格を失っているのは国民、というよりはメディア自身の姿ではないでしょうか。

このような相次ぐ不祥事の中で――不祥事の中には、誤報や報道被害のほかに、NHKをはじめとする巨大メディア内部の問題や金銭問題が含まれていますがーーいま日本は新たなメディア社会に突入しています。テレビとインターネットの融合、携帯メール、新聞の行く末・・・などなど多様なメディアの課題が激しくせめぎ合っています。  無風地帯といわれた日本のメディア企業にも企業再編やM&Aの風が吹いてきています。この流れは止めることができないでしょう。  日本のメディアはどこへ行く? ゴールを見失って漂流し始めた日本の巨大メディアの構造改革はどうあるべきか。そして日本社会の成熟と民主主義の深化に寄与する本当のジャーナリズムとは何かーーーそういうゴールを求めて私たちは立ち上がりました。

現代メディア・フォーラム代表
しばやま・てつや
2006年4月1日